はじめに
未曽有な大惨事となった東日本大震災から1年経ちましたが、復興の道はなかなか厳しい状況にあるようです。岩手県陸前高田市の戸羽市長は被災後、「企業のPRになってもいいから助けて下さい」と悲痛な呼びかけをしていました。また、農業復興については「従来の農業ではない、若い人たちが魅力を感じる一つの産業としての農業を展開してもらいたい」とも語っていました。道端でりんごを売るような農業では食べていけないということなのでしょう。ここにこれからの農業を考えるヒントがあると私は思っております。
NPO法人元氣農業開発機構は一昨年の12月に正式に設立されましたが、適正な利益を得られる農業を実現させるため民間の英知を結集させて我が国の農林水産業を元氣にしていこうということを目的にしております。元氣農業こそ新しい産業というより太陽、土、水に恵まれた環境の中にある我が国の特徴をいかして、安全、安心な農産物を求める多くの国民に応え農薬や化学肥料を使わない自然農法を展開していく必要があろうと考えております。
NPO法人元氣農業開発機構の役員は民間企業で活躍されている方ばかりです。理事長はパナソニックの顧問をしております古瀬洋一郎さん、副理事長に紀文食品の元代表取締役専務の高野さん、東京都内で「おはち」グループの会長だった坂本さん。理事も筑波大学名誉教授、物流会社の社長、NPO法人の理事長、農業生産法人の代表など多彩な顔ぶれとなっております。具体的な活動として朝市夕市、セミナー、現地見学会、異業種交流会、農業政策に関する勉強会などを行っております。
1 日本農業の実態についてですが、戦後、食糧難の時代に米の増産政策がとられ、化学肥料、農薬をふんだんに使って克服してきました。それだけ食べるものが少なかったわけです。
農水省の幹部の方から「農薬を悪者にしないで下さい」と良く言われます。しかし、私が新聞記者時代に北海道から九州、沖縄までの農業現場を現地取材して歩いていた時、このままでは日本の多くの方々が病気になってしまうのではなかろうかという農薬・化学肥料全盛時代を見てしまったのです。
北海道で「玉ねぎに掛ける農薬の回数が20回超えた、大玉でないと出荷できない。皮を剥いて食べてもらわないとならないのでー」とこっそり農業団体であるホクレンの幹部から聞かされ、またジャガイモの収穫は大型機械で掘るのですが、葉っぱが青々していると機械に絡んでしまうので、まず葉っぱを枯らしてから掘るという。ベトナム戦争で大きな問題になった枯れ葉剤ですよ。今でも除草剤、枯れ葉剤が使われていると思います。
機械化が進むにつれて土を硬くしてしまう踏圧問題が起きて土づくりが重要と盛んに言われましたが、手間と経費が掛るということから化学肥料、農薬に頼らざるを得ない状況に。
野菜等の畑作物の栽培では日本は火山灰の土壌が多いのですぐ肥料が下の方に行ってしまいます。そのため何回も肥料を入れなくてはならない。そのため硝酸態窒素の含有量が多くなってしまいます。有機堆肥を入れる場合でも同じようになってしまいます。作物は窒素が大好物ですので、他のものは吸い上げず、窒素ばかり吸い上げるのです。ですからカルシウム不足の野菜が多いと言われるのです。このことを北海道の上川農業試験場の方から「こんな野菜を食べていたら癌になる」と聞かされ、本当かどうか密かに取材しておりました。なんとその当時、農水省ではタブーの一つだったのです。畜産業界では牧草に牛の糞を撒いて、その牧草を牛が食べると腰を抜かすことから硝酸態窒素の含有量が多いと危険だということを知らない人はいないという話でした。
私は新聞記者を辞めてこの問題を提起するために日本農業のビックバーン、農業問題の提起と解決策をテーマにシンポジウムを東と西で開催しました。
ここで人間にとって硝酸態窒素の恐ろしさを紹介します。これは農学博士・渋谷政夫先生の話を引用させてもらったものです。
人への影響は食事により摂取された食べ物が口腔内の微生物の働きで硝酸が還元されて亜硝酸となり胃、小腸から体内に吸収され、血液中の酵素を運搬するヘモグロビンと結合してメトヘモグロビン症を起こすことが知られている。この症状は顔色が青くなり、ひどい場合は死亡する。幼児に発症が見られるのでブルーベビィ症といわれ、古くから知られている。FAO/WHO専門委員会の報告によれば、硝酸塩を含む水の使用によって乳幼児の中毒事例が多く起きている。
窒素肥料の投入が多くなりますと、作物は軟弱に生育し病害虫が増加し農薬の使用に頼るしかなくなる。病害虫の予防、駆除となるわけです。現在、化学肥料の多投、農薬、除草剤の三大要素によって農作物生産が行われています。その結果、農耕地土壌には小動物や微生物の減少あるいは生存しなくなり、また土壌有機物が少なく、地下水には硝酸態窒素が増加し、河川を汚染することになります。
2 日本人を元氣にするには、農薬や化学肥料、除草剤を使った農産物ではなく、自然農法で生産された丈夫で、安全な安心な農産物を食べることが必要不可欠であります。また、日本人の智慧である「発酵食品」。味噌、醤油、漬け物、納豆、酢、日本酒、みりん、甘酒など。これら発酵食品はおいしく、毎日食べても飽きがこない。「おいしいもの」とは、ミネラルバランスがよく、アミノ酸や核酸のバランス、酸の糖のバランスがよいものと言われています。この「おいしいもの」づくりは「土づくり」にあるわけです。
